甘ったるい彼等【短編集】(雪男) (ページ20)

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you side

震える声に驚いてマグから顔を上げると
眉間にシワを寄せ、溢すもんかと堪えている蓮の姿

先走るのが私の悪い癖

決定事項みたいに伝えてしまったのが良くなかったなと反省する

蓮の席まで移動する間もじっと私から目を離さない彼

隣に立って頬を撫でると手を取られ、膝の上に乗せられる
ぎゅっと抱き締められると耳元で詰まる声がして肩口が濡れた。

「ごめん、蓮のこと想って言ったつもりだったんだけど

　私の一番は、今までもこれからも一生蓮だけだよ

　だけどね、生活のことは一緒に考えたいの
　仕事のこととか、これからのこととか色々踏まえてさ
　迷惑だけはかけたくないから、ね？」

『情けないなぁおれ…
　Aがいないと多分ダメになる
　想像しただけでこんななんだから別々なんて無理だわ』

『だからずっとそばにいて』と真剣な顔で言われるとプロポーズされてるみたいで照れた

「ごめんね」を言うと『俺のこと想ってのことだからいいよ』と
仲直りして一件落着した。

.

あーいや…落着は、しなかった

『迷惑だなんて離れられる方が迷惑だわ』
『ほんと信じらんない、いつも突拍子ないしさ』
『俺、心臓ちょっと止まったよ？』
『だいたいさ、部屋増やしたらいいだけじゃん
　内見予約するから行ってきてよ』

ぶーぶー拗ねて怒る蓮を宥めるのに一ヶ月はかかったし
ツアーだなんだと忙しい彼の代わりに、休みは全て内見で潰れた

結局、二部屋寝室に出来る大きさの部屋に越したものの
部屋を分けるのは寂しいから嫌だと駄々をこねた蓮のせいで
一部屋無駄になっているけど、もうそれでいいと思ってる。

『今日はハチミツでいい？』
「うん、ありがと」
『いいえ。ここベランダ広くてほんといいね』

貴方の趣味のためにベランダ重視で部屋を決めたんだよ
蓮が私の好みに合わせてコーヒーじゃなくて紅茶を淹れてくれるように、私たちは思いやりあって生きてる。

まだまだ歩幅はバラつくし、スピードも違うかもしれないけど
向かう先だけは同じものを見ていると信じてる

「だよね？蓮」
『ん？うん』

訳も分からず即答する蓮には伝わってるのかもなんて

Fin.