決断(後編) ページ23
( you side )
正門「ゆっくり息吸って。うん。大丈夫やから」
悲しいからなのか息苦しさからくる生理的なものなのかわからない涙が落ちていく。
『……ご、めん。大丈夫』
少しづつ空気が吸えるようになって、呼吸が落ち着いてきた。
酸素がやっと脳に回って息を吐きだす。
しっかりしないといけない時だ。
戸惑っている場合ではない。
ここで立ち止まることを私は望んでなんかいない。
『はっ……』
私の手を握っていた正門の体温が離れていくので顔をあげた。
立ち上がった正門は、今度は私の背に腕を回す。
弱い力で包まれるように抱きしめられて彼の香りがした。
正門の肩におでこをくっつけて、再び大きく息を吐く。
気持ちなんて5年近く前に捨てたはずなのに。
今でもこの人が傍にいると安心と緊張が半々になったみたいな気持ちになった。
正門「……」
正門は黙って私の背中をとんとん、と一定のリズムで優しくたたく。
今度こそ息苦しさではなく悲しくて涙が出た。
大晴、会いたいよ。
話がしたいよ。
もっとギャグに笑ったら良かったね。
もっとしたいことはしておいたら良かった。
私たち永遠に友達だって言い合ったじゃん。
大晴、ドームにみんなで立つって言ってたのに。
……うそつき。
『ありがと、大丈夫』
少しして落ち着いてきたのを見計らって正門の胸を軽く押す。
最後に私の頭をふわりと撫でた彼の身体が離れて行った。
『びっくりさせてごめん』
心配そうにこちらをうかがっていたメンバーに向き合う。
リチャ「それはええけど。大丈夫なん?」
『うん。たまになることあるんだよね』
最近はなかったけれど、Ms.Princessが解散になって
1人で関西に帰ってきた頃は時々なっていた。
その頃から関わりがある正門や小島は見たことがあるせいか、
2人は私の様子にも落ち着いている気がする。
小島が自分の前にあった未開封のペットボトルを開けると、
こちらに差し出してくる。
『ありがとう。
……私もみんなと意見は同じ。
グループを続けない選択肢はないと思ってる。
ここで途切れさせたいとは思わないし、
私はみんなとじゃないともうやりたくないし、
ファンの人が必要としてくれるかぎりアイドルでいたい。
大晴がいてくれたことを残す意味でもAぇを失くしたくない』
370人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:くー | 作成日時:2023年11月15日 12時